【FIRESIDE×遠藤製作所】理想の斧、2年半の軌跡。
ハンマーアックスの開発秘話

INTRODUCTION

薪ストーブを中心とした豊かなライフスタイルを提案する「FIRESIDE」。彼らが長年抱き続けてきた「日本人のための、本当に使いやすい斧を作りたい」という熱い想い。その夢を形にするための開発パートナーとして白羽の矢が立ったのは、世界的なゴルフヘッドメーカーとしても知られる「遠藤製作所」でした。

過去の開発で味わった苦い経験、大企業との協業への驚き、そして「不可能」と思われた技術的な壁。数々の困難を乗り越え、ひとつの「作品」と呼ぶにふさわしい斧「ハンマーアックス」が誕生するまでには、2年半にも及ぶ長い道のりがありました。

今回は、FIRESIDE開発担当の高坂様、遠藤製作所の岡田様をお迎えし、遠藤製作所Web編集部がインタビュアーを務めます。製品に込められた情熱や、開発の裏側に秘められた知られざるドラマを、臨場感あふれる対話形式で語っていただきました。

「日本人のための斧」への熱い想い

御社は海外製品をよく扱われていますが、そのなかで、「もう少しこうだったら」と感じられた点はどのような部分でしょうか?

高坂様(FIRESIDE):
まず国産の薪割り斧をつくりたい──その思いが出発点でした。
長年、海外製の斧を日本市場に輸入・販売してきましたが、製造元では職人離れが進み、さらに世界的な需要増により日本への供給は減少傾向にありました。加えて販売を続ける中で「ここを改良すればもっと良くなる」「この仕様なら日本市場に適している」と感じても、海外メーカーはなかなか応じてくれません。そうした状況を受け、自分たちの手で日本市場に合った斧を造ろうと考えたのが出発点です。

次に大きな違いは「木」と「人」です。
ヨーロッパと日本では伐採される木の種類が異なり、繊維質や油分の多さなど特性にも差があります。そのため、同じ薪割りであっても、求められる道具の設計は大きく変わってきます。

さらに、ユーザーの体格も重要な要素です。ヨーロッパの人々に比べ、日本人は平均的に小柄で、力のかかり方も違います。これまで「日本向けに柄を短くしてほしい」と依頼したことはありましたが、ヘッドの重さとのバランス調整など根本的な仕様変更までは受け入れてもらえませんでした。彼らにとっては「自分たちが問題なく使える製品」で十分であり、日本市場のためだけに新たな生産ラインを起こすのは数量的にも難しいのです。

だからこそ、日本人の体格や木材の特性に合わせた、細やかな設計を施した“日本のための斧”を国内でつくる必要があると、強く感じています。

パートナー探しの末の、意外な出会い

そうした中で、遠藤製作所様と出会われたのですね。パートナーは何社か探されたのですか?

高坂様(FIRESIDE):
銀行さんのビジネスマッチングで紹介していただきました。「FIRESIDEさんの課題は何ですか?」と聞かれ、「ものづくりの中で鍛造技術が必要なのに社内にない」と答えたんです。薪ストーブライフを支える道具、例えば斧やハンマーを造りたいけれど、どうしても鍛造がネックになっていました。

そこで長野県近隣で探していただき、私の知る限りで3社ご紹介いただきました。ただ、そのうちの1社は自動車部品メーカーさんだったのですが、台風被害で工場が被災され「復旧まで対応が難しい」と言われたり、展示会で石川県の鍛造屋さんと話したものの、そこから進展がなかったり…。

実はそれ以前にも国内の刃物産地で斧を製造したことがあったのですが、プロジェクトの進め方や品質面で課題がありました。例えば、打合せで合意した仕様と量産品が違っていたり、発注前なのに金型を作ってしまったり…。試作品は良かったのに、量産で「あれ?形が違う」ということもありました。こうした経験があったので「日本で斧を造るのはやはり難しいのか」と感じていた時期もありました。

「こんな大企業が?」第一印象と信頼の芽生え

そうしたご経験がある中で、遠藤製作所様が手を挙げてくださった。率直にどう感じられましたか?

高坂(FIRESIDE):
第一印象は「こんな大企業の方が手を挙げてくれるの?」っていう驚きが一番でした。恥ずかしながら私は存じ上げなかったんですけど、弊社の専務は知っていて、「すごい会社から手を挙げていただいたぞ」と。専務はゴルフもするので、すぐに話が盛り上がっていましたね。

ホームページを拝見して、ゴルフはもちろんですが、私は学生時代に人工骨のプログラムを隣で見ていた経験があって、医療製品の技術というのは、ものづくりの中でもトップレベルの人たちがやっている、という印象があったんです。その遠藤製作所さんが鍛造によって体内に埋め込む製品を手がけていると知り、「これは相当に高度な技術を持つ会社に違いない」と。お会いする前から、自然とそうした期待や尊敬の念を抱いていました。

実際に担当の方にお会いした時の印象はいかがでしたか?

高坂様(FIRESIDE):
初めてお会いした時、もう準備万端で迎えてくださったんです。応接室のテーブルの上には、色々なサンプルがずらっと並べられていて。私たちは「斧が造りたい」という一心でお伺いしたのですが、遠藤製作所さんの当時のご事情では、すぐには難しい部分もあったようなんです。でも、「できないからお帰りください」ではなくて、「今はできないですけど、こういうのだったらできますよ」「こんなサンプルもありますよ」と、次々に提案してくださって。その姿勢を見て、ぜひ一緒に進めていきたいなと思いました。

信頼を確信に変えた「トリップケトル」

こだわりを叶えてくれそうだと感じられたのですね。

高坂様(FIRESIDE):
そうですね。実は、ハンマーアックスを造る前に、「トリップケトル」というヤカンを一緒に造っていただいたんです。そのケトル開発の過程で、私たちが本当にたくさんの“わがまま”を言わせていただいて。「こんな仕上がりのケトルだったら素敵だね」とか、「もう少しこうしたい」とか。それを遠藤製作所さんがすべて叶えてくれたんです。その経験があったからこそ、「この方たちとなら、こだわり抜ける」と確信できました。

特に難しかったのが「黒色」ですね。私たちが扱うのは焚き火や薪ストーブの周りで使う道具なので、塗装だと火にかけると剥がれてしまう。ただ黒くするだけではイメージと違う。「火にかけながら、育てる楽しみのある黒」という、非常に難しいリクエストをしたんです。見本をいくつも造っていただいて、その中で一番難しくて、一番やりたくないであろう黒を選んだのですが、見事に実現してくださいました。

技術の結晶「ハンマーアックス」と最大の壁

そしていよいよ斧の開発ですね。「叶えたい形状」というのは、どういった特徴があったのでしょうか?

高坂様(FIRESIDE):
薪を割る斧として、私たちが思い描く理想の形状がありました。まず、こちらの抽象的なイメージを、図面通りのものとして完璧に造っていただけた。これが前回の課題を解決する第一歩でした。その上で、さらに品質を良くするための“わがまま”を叶えていただいたんです。

一番印象に残っているのは、斧のヘッドに木の柄を差し込む「ひつ抜き」という部分の形状と品質です。最初の試作品で少し形状が違うものが出てきた時に、黙って「これ、こうなりませんか?」とお伝えしたのを覚えています。

岡田※(遠藤製作所):
今、お話にあった通り、一番の難関は「ひつ抜き」でした。高坂さんが求められた形状は、断面積が大きいのに対して、両脇の肉が非常に少ない。強度的な課題がありました。木と密着する面積を80%から90%くらいにしたいというご要望で、ガタつきがなく、力がダイレクトに薪に伝わるようにするためです。これは設計上は作れるのですが、製造上は非常に難しい。最初の量産試作では、どうしてもばらつきが出てしまいました。

(※編集注:本プロジェクトの遠藤製作所側メイン担当者)

その難しい課題をどうやって乗り越えられたのですか?

岡田(遠藤製作所):
なぜそうなるのか、原因を徹底的に洗い出しました。
熱々のまんじゅうを上から押すと、中のあんが柔らかいぶん表面が凹みますよね。鍛造でも同様で、冷却の過程で表面に硬い酸化皮膜(スケール)が張り、外側だけが先に固くなる。その状態で上から荷重をかけると、内部はまだ柔らかいため、内側へと「座屈(引き込み)」が起きてしまうのです。

結論は、「温度が下がる前に、一気にきれいに抜く」。
ごく狭い温度域――表面が硬化する前――で抜き切るために、金型屋さん・鍛造屋さん・当社の三者で工程を総点検し、条件を見直しました。コストは上がりますが、その結果、高坂さんにご満足いただける水準に近づけたと考えています。

職人の心を動かした「人間力」

高坂さんから見て、遠藤製作所さんの「ここはさすがプロフェッショナルだ」と感じた瞬間はどこでしたか?

高坂様(FIRESIDE):
担当の岡田さんが、鍛造のスペシャリストだった、ということに尽きますね。鍛造屋さんとお話しされている時、現場でハンマーを振るう職人さんたちの技術をすべて理解した上で、提案をされているんです。私たち素人が直接お願いしても、きっと「できない」で終わってしまうようなことでも、岡田さんが「こうすればできるんじゃない?」と話すと、鍛造屋さんが「またそんなこと言って」と笑いながらも、目がキラキラしている。

職人さんたちって、そういう難しい挑戦に誇りを感じるんですよね。その会話を聞いている中で、技術はもちろんですが、技術を持つ人たちの心を動かして、行動に移させる力。その人間力が本当にすごいなと。さすがだな、と思いました。

「長かった」の一言に込めた、2年半の想い

数々の試行錯誤を経て、ついに完成品を手にされた時、最も強く感じたことは何でしたか?

高坂様(FIRESIDE):
一言、「長かったな」と。

開発にはどれくらいの期間が?

岡田(遠藤製作所):
2年半から3年くらいですね。

高坂様(FIRESIDE):
ビジネスマッチングで初めてお会いしたのが2021年の7月ですから、ケトルから含めると4年くらいになります。技術的な課題も、社内的な課題もあって、越えるべき壁がたくさんありました。だから、やっとたどり着いた、ここまで良い商品に出会うまで長かったな、という想いがこもった「長かった」でしたね。

パートナーとしての遠藤製作所の価値

最後に、これからものづくりに挑戦する企業にとって、「遠藤製作所に頼む意味」とは何だと思われますか?

高坂様(FIRESIDE):
燕三条という地域は、日本のものづくりの中でも少し異質というか、独特の「癖」がある場所だと感じています。ただ、その人たちだからこそできる、すごいものづくりがある。僕が一人で鍛造屋さんに乗り込んでいっても、きっと話も聞いてもらえなかったと思います。そこに遠藤製作所さんが入ってくださることで、その入り口の敷居を下げてくれるというか、受け入れてくれるんです。

岡田(遠藤製作所):
燕三条は土地柄、プライドが高いんですよね。自分と同レベルの知識や熱量がないと、なかなか話を聞いてくれない。一見さんでは簡単には入れないと思います。でも、一度懐に入って認めてもらえれば、とことん、細かいところまで付き合ってくれる。そこに入るまでが、本当に厳しいんです。

高坂様(FIRESIDE):
本当にそうですね。だから、自分たちが「こうしたい」という強い想い、こだわりがある企業が遠藤製作所さんという最高のパイプを通じて燕三条と関わることで、何かとてつもなく良いものが生まれるんじゃないか。その期待を抱かせてくれる存在です。私たちの想いを、期待以上の「作品」として形にしていただけた。それが全てを物語っていると思います。

法人名 ファイヤーサイド株式会社
設立 1987年8月8日
所在地 〒399-4117
長野県駒ヶ根市赤穂497-871
会社について

Fireside(ファイヤーサイド)は、「火との暮らし」を提案する薪火のライフスタイルブランドです。薪ストーブや暖炉から、アウトドアの焚き火や調理器具まで、火を使った時間と空間の楽しみ方を提案しています
ファイヤーサイド – 薪ストーブと焚き火で楽しむ火のある暮らし。37年以上にわたり火と人、人と自然のつながりを大切にし、ただの暖房器具以上の「薪火文化」を広めてきました。

  • 薪ストーブ・暖房器具および関連付属品の輸入卸販売
  • エクステリア用品の輸入卸販売
  • 調理器具・キッチン用品の輸入販売
  • 雑貨の小売販売
  • 出版事業
Webサイト https://www.firesidestove.com/

遠藤製作所Web編集部まとめ

「長かった」という一言に、2年半以上の苦労と達成感が凝縮されていました。FIRESIDE様の熱い想いに、遠藤製作所様が技術と人間力で応え、燕三条の職人たちの心を動かしたからこそ生まれた「ハンマーアックス」。それは単なる工業製品ではなく、関わったすべての人々の情熱の結晶です。

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